体外受精・胚移植案内
体外受精・胚移植は大きく分けて、五つの過程からなります。それは卵巣刺激、採卵、媒精と卵培養、胚移植、黄体機能の維持です。
これらの五つの過程をもとにこれから当院での体外受精・胚移植のスケジュールについてご案内いたします。
卵 巣 刺 激
採取した卵は精子減少症がない場合80〜100%が受精しますが、その卵が良好な4細胞胚に発育するのは30%ぐらいです。
不良な4細胞胚は胚移植をしても着床にはいたりません。
このためなるべく多くの卵を採取する必要があります。
自然周期では左右のどちらかの卵巣から1個の卵しか排卵されないため、排卵誘発剤を毎日注射して多くの卵胞を発育させる必要があります。
しかしながら排卵誘発剤に対して反応性の悪い方がおり、通常量の排卵誘発剤では卵胞発育も悪く採卵ができない方がいます。(キャンセル例)
このキャンセル例をなくすための検査が採卵全周期のホルモン検査です。
採卵全周期の5日目からクロミッドという排卵誘発剤を5日間内服してもらい、2〜4日目と10日目に卵胞刺激ホルモンと卵胞ホルモンの検査をします。
これらのホルモン検査値により、排卵誘発剤の投与量をきめます。
採卵前周期の黄体期中期よりスプレキュアというスプレー薬を点鼻します。
排卵誘発剤を注射すると採卵前に自然に排卵が起こる場合があり、採卵ができなくなります。これを防ぐのがスプレキュアで、1日3回採卵前々日の夜まで
毎日点鼻します。
採卵周期の3日目より毎日排卵誘発剤の注射をし、その間何度か経膣超音波検査により卵胞径を測定して、hCGというホルモン注射に切り換える日を
決定します。
hCGを注射してから36〜38時間後に採卵をしますので、採卵前々日の夜12時に注射を外来にてします。
採 卵
採卵日は午前11時ぐらいまでに来院してもらい、外陰部を清潔にするため半剃毛をおこないお部屋で待機していただきます。
同時にご主人は部屋で精子を採っていただきます。
午後1時より採卵を始め約30分で終了します。
採卵時、静脈麻酔をするため、麻酔が覚醒するまで約3〜4時間ほど部屋で休んでいただきますが、午後5時頃には帰宅できます。
媒精と卵培養
3〜5時間卵を前培養した後、調整した精子を培養液の中へ加え受精を促すことを媒精といいます。
翌日卵のまわりの細胞をはがし、受精の有無を確認し培養液を交換します。
二日後の朝良好な4細胞胚に発育しているかどうかを確認し、胚移植が可能かどうかを決定します。
胚 移 植
胚移植が叶かどうかについては、胚移植の日の午前9時前後までに電話でご連絡いたします。
胚移植が可能な場合は五山10時ぐらいまでに来院してもらい、お部屋で待機していただきます。
午前11時よりおこない約15分ほどで終了します。
胚移植は麻酔なしでおこないますが、安静のため3時間ほど休んでから帰宅してもらいます。
なお、他の人の採卵と重なる場合は午後1時からとなりますので、その旨先に電話でご連絡いたします。
黄体機能の維持
体外受精・胚移植を成功させるためには、着床に直接関係する黄体機能を維持することが必要となります。
このため隔日ないし週に2回の黄体ホルモンの注射が必要となります。
胚移植後10日目には血液中のホルモン検査をおこない、14日目に尿中のhCGを測定することにより
妊娠の判定をおこないます。
また、妊娠が成立後も経膣超音波検査で児心拍が確認されるまで(約妊娠8週)、週2回の黄体ホルモンの注射が必要となります。
キャンセルと妊娠率
ここまで体外受精・胚移植の過程についてご案内してきましたが、胚移植および妊娠に至るまでは多くのハードルが存在します。
- 卵巣刺激時に卵胞が発育しなかったり、発育しても1個しかない場合
- 採卵時に卵胞はそれなりに発育が認められるにもかかわらず、1個も採卵できない場合
- 媒精時に精液が採れなかったり、精子が全く精液中に存在しない場合
- 肺移植前に受精が成立しなかったり、受精しても良好な4細胞胚に発育しない場合
以上のような場合は全てキャンセルとなります。これまでの横浜市立大学での成績では約20%の方がキャンセルとなり、
その多くは精子減少症による受精障害でした。
胚移植まで施行できた方の妊娠率は約30%〜40%ですが、そのうち約30%は初期流産となります。
自然妊娠の流産率は約15%位ですのでかなり高率ですが、この高い流産率は体外受精・胚移植が原因ではなく
排卵誘発剤の使用が原因だといわれています。
事実、排卵誘発剤による妊娠の流産率は約30%ぐらいです。
これらのことから最終的に1回の体外受精・胚移植で妊娠が継続し、挙児を得るのは20%〜25%ぐらいとお考え下さい。
顕微授精
精子減少症おために人口受精などの治療をおこなっても妊娠が成立しない場合、体外受精・胚移植が必要となってきます。
しかしながら通常の体外受精では卵子に受精できない、受精能のない方がいます。
こうした方には顕微授精が必要となります。
この方法は採取した卵を顕微鏡で観察しながら、卵の中へ直接精子を注入する方法で、卵細胞内精子注入法が主流です。
現在では、通常の体外受精と同様の妊娠率となっています。
最後に
横浜私立大学にて体外受精・胚移植を始めた頃はなかなか妊娠が成立せず、スタッフ一同かなり苦慮し悩みました。
その頃はなかなか良い培養液もなく自分たちで作成したり、動物の体外受精をしたり、いろいろな実験や工夫の末
現在に至っています。
顕微授精にしてもそうですが、これからもおおいに創意工夫をして、なるべく多くの不妊の方が妊娠されることを願っております。